恐怖の語部 第八怪
死にたがる者と殺したがる者
ひとりの青年がいた。安アパートに暮らしているフリーターである。世のすべての青年がそうだとは言わないが、この青年は夢も希望もなく、趣味も恋愛もなく、未来に対するイメージも実感できず、ただ毎日をだらだら過ごしているだけで、たったひとつの楽しみといえば、インターネットだった。
ある日、青年がネットサーフィンしていると、ふと妙なウェブサイトを見つけた。タイトルは『死の浄化』という、管理者不明の、黒と赤、あるいはそれに近い色を基調にした、何となく薄気味悪いサイトである。メニューのひとつ、LEAD(サイト案内)を見てみると、どうやら自殺願望者が集うサイトらしい。掲示板を覗いてみると、案の定、一緒に死んでくれる人を募集中という投稿がほとんどだった。
これが今、世間を騒がせている<ネット心中>なのか、と青年は、もう二度と訪問したくないと思った。
その日以降、忘れようとした。が、忘れようとしても、忘れることはできなかった。愛読しているマンガ週刊誌やスポーツ新聞に、いやでもネット心中の話題が出ることがあったからだ。今まで何度か眼についても興味がなく、読みもしなかったのに、『死の浄化』訪問以来、まるで何かに導かれるかのように、その話題についての内容を読み漁った。
青年は思った。
毎日毎日、ただ働いて寝るだけじゃ、もうつまらなくなった。将来や社会に対しての希望もなし、このオレなんか生きてたって、誰も喜ばんだろう。死んだ方が迷惑よりもむしろ喜ばれるのではないか。どうせ命なんか惜しくない。
そう考えると、無常に『死の浄化』へ行ってみたくなったのだ。居ても立ってもいられず、ふたたびネットで訪問し、掲示板に書き込んだ。
はじめまして。
オレはもう生きているのがイヤになりました。
一緒に死んでもらえるヒト、募集中です。
よかったらメールをください。
数日後、青年のパソコンに一通のメールが届いた。『死の浄化』の掲示板を見た者からのメールにちがいないが、内容は実に妙なものだった。差出人の素性や自殺方法など何も書かれてなく、ただ、ある日時にある場所へ行け、と言う。それも日時や場所、服装、また行動についても細かく指定され、また、このメールは当日実行するまでに必ず削除せよ、と……
指定された日、青年は指定された服を着て、指定された場所へ行くことにした。指定された場所とは大通りで、指定された行動とはただその歩道を歩け、ということだった。もちろん、メールを削除することも忘れなかった。
自殺と何か関係あるのかと考えながら、ただ歩いた。行き交う人びとの顔や動作に注意を向けることなく、ただ歩き続けていた。すると……
突然、腹に痛みを覚えたかと思うと、青年は急に倒れた。見ると、腹には鮮血があふれていた。たちまち通行人たちの悲鳴があがった。
またもや、通り魔か!
最近、世間を騒がせている無差別の通り魔事件のことで、犯人はまだ判明できず、これまで四人の若い男女が殺されていた。青年は五人目の犠牲者だった。
自殺願望者が通り魔に襲われて、死亡……
単なる偶然の暗合だろうか。
『死の浄化』
このサイトには実は裏のサイトがあった。『狩猟鬼』というタイトルで、人を殺したがる者たちが集まる、危険なサイトだった。言わば『死の浄化』は『狩猟鬼』のための<エサ>だったのだ!
【新誠の書斎】http://www.drhp.org/syosai/