恐怖の語部 第三怪

あの時、見たものは

 あれは夢だったのだろうか。お祭りが終った夏の夜、帰りに、どこかの公園だったと思うけど、星降る夜空に満月、オレンジ色の常夜灯、そして揺れるブランコ。そこにはふたりの若い男と女がいた。何だか口ゲンカしていたようだったが、突然おそろしい場面に変わった。男が女を殺そうとしているのだ。
 男の両手が女の首を絞める。優しそうな男の顔が鬼のようにこわくなってきた。女はあえぎながら助けを呼ぼうとした。が、首が圧迫されているので、声が出ない。
 と、女の瞳が何かを思い出したかのように、こっちを向いた。わたしはドキンとした。まるで、わたしの存在を知っていたような視線だったからだ。
 わたしはこの時、茂みの中に隠れてふたりの様子を見ていたのだ。どうすることもできなくて、幼かったわたしはこわくなって逃げてしまった。ただ無我夢中で……
 気がついたらわたしはベッドにいた。朝の陽光がカーテン越しに差し込んでいる。
 何だ。夢だったのか。それにしても妙だわ。なぜ、そんな夢を見たのだろう。
 ちょっと気になったけど、出勤して仕事に没頭しているとすっかり忘れていた。今夜は久しぶりのデートだ。ウキウキしているので、いやな夢など忘れるのも当然だろう。
 しかし、これも久びさの残業でだいぶ遅くなってしまった。携帯電話で連絡してあるので、約束の時間が過ぎても、彼は待っていてくれるだろう。
 思いのほか、会社を出たのは九時になろうとする頃だった。わたしは急いだ。彼が待っているのだ。いくら優しくても短気な彼はイライラしているのだろう。タバコもずいぶん吸ったにちがいない。
 やっと公園に着いた。彼は怒ったような顔で、ベンチでタバコを吹かしていた。吸いがら入れには、ずっと待ったことを証明するように、短くなったタバコがいっぱい入っている。
 わたしは遅れたことをわびたけど、彼は許してくれなかった。それどころか、別れようと言うのだ。ほかに好きな女ができたんだ。だから別れてくれ、と……
 いきなりだったので、しばらく何も言えなかった。が、強気なわたしはやっとのことで口を開いた。
 何言ってるの。冗談じゃないわ。
 それから激しい言い争いが始まった。彼はカッとなって、わたしの首を絞めにかかった。のどが圧迫される。意識が遠くなりそうだ。
 その時、わたしはハッとした。この場面、見たことがあるのだ。星降る夜空と満月、風に揺れるブランコ、そして、わたしと彼の服装と格好……
 そうだ。思い出した!
 わたしの視線が、いつの間にか茂みの方を向いていた。そこには……
 小学生の、浴衣姿のわたしがおびえながら、わたしたちを見ているのだ!
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