恐怖の語部 第二怪

心霊写真

 仲好しOL三人組のひとりが死んだ。ひとり暮らしのアパートで、首をナイフかカミソリのようなもので切られていた。完全な密室で、凶器らしきものはなかった。
 警察の調べで、自殺か他殺か、もめていた。まさか、事故というのじゃあるまい。俗にいうかまいたち現象でも、多量の血を流して死に至ることはないだろう。
 他殺なら密室はどう説明すればいいのだ。自殺ならナイフのようなものは近くになければならない。考えれば考えるほど、不思議な現象だった。世間ではそう見られていた。ただ、わたしと友だちを除いては――
 わたしたち三人組は同じ会社に同期入社したOLで、配属先はちがうけれど、時間さえあれば毎日のように会っておしゃべりばかり楽しんでいた。わたしたち三人が会うのはいつも喫茶店かレストランで、その連絡方法はもちろん携帯電話だ。
 共通の趣味は旅行で、長期連休には必ずと言っていいほど三人で国内旅行に出かけた。観光、温泉、スキー、グルメなど……
 旅行にはカメラが必需品だ。何よりも記念品となり、また記録にもなる。でも楽しいことばかりでもないのだ。時には嫌な写真だってある。ピンポケだったり、顔が写ってなかったり、三人でポーズを取っている時に何かが通ってたり、と、それらの失敗写真はまだいい方だ。
 心霊写真――
 有休を利用した三日間連休で二泊三日温泉旅行に行った時の写真の中、一枚だけ、わたしたち三人が思わず悲鳴をあげずにはいられないほどの不気味なものがあった。それは温泉旅館の地元のお祭りで、三人とも浴衣を着て、花火をバックに撮った写真であるが、よく見ると、その花火のところに、顔らしきものが写っているのだ。花火の光の加減だろう、という意見もあったが、それにしては、その眼は何だかわたしたちをにらんでいるような、ゾッとするものがあった。
 あまりにも気持ち悪かったので、三人共用のアルバムに貼る気になれず、ゴミ箱へ捨てたのだ。
 ところが二、三日後、友だちがわたしたちに常識では考えられないような話を持ちかけた。あの写真が手元にあると言うのだ。たしか捨てたのは公園のゴミ箱のはず……
 どこをどう巡りめぐって彼女の所へ舞い戻ったのか。気がついたら部屋の中央にあるテーブルの上にあったと言う。わたしたちのイタズラじゃないか、と彼女は責めた。もちろん身に覚えのないことだ。
 奇妙なことはそれだけではなかった。写真をよく見ると、顔らしきものの位置が少しズレているような気がしたのだ。記憶ちがいじゃないかと思ったが、ふたりともやはり同じ気持ちだったようだ。
 喫茶店を出たわたしたちは、この一枚の写真を地下鉄駅内のゴミ箱へ捨てた――
 その夜に起こったのが、彼女の変死だった。いつも仲の好かったわたしたちふたりは、警察に事情などをいろいろ訊ねられた。よっぽどあの写真のことを話そうかとも思ったが、笑われそうなので、やめにした。
 一週間後、今度はもうひとりの友だちの異変だ。それは携帯電話から始まった。
「ハイ」
『たすけて!』
「え、ど、どうしたの」
『あ、あの写真! あの写真が……』
「あの写真が、どうしたの」
『う、動いてるよ。あの写真!』
「え……?」
『あたし、殺される! 今にも首が切れそうだよ!』
「お、落ち着いて。ねぇ、どういうことなの」
『きゃあああーッ』
「ヨーコォ?!」
 いくら呼びかけても、あとは静寂ばかりだった。居ても立ってもいられなくなって、彼女の家へ急行した。彼女は両親と三人家族だ。案の定、家のまわりには警察の人たちがたくさん来ていた。
 最初の友だち同様、彼女も首を切られて死んだ。密室ではなかったが、両親以外の人が入った形跡はなかった。現場にたたずんだわたしは、窓に映る妙なものを発見した。それはあの写真の顔らしきものと酷似していた。と、まばたきする間もなく、消えていった。眼の錯覚だったのか……
 わたしはおそれていた。友だちがふたりとも亡くなって自分だけが助かる道理なんてない。いつかおそろしい目に遭うのだ。そう思うと、恐怖の毎日だった。ちょっとしたことでもビクッとしたり、小さな音でもドキッとしたり、肩をたたかれてキャッと叫んだり……自然と周囲から異様な眼で見られるようになった。
 そして……
 とうとう来たのだ。あの写真が!
 会社から帰り、ひとり暮らしのアパートの部屋を開けたとたん、わたしは悲鳴をあげた。部屋の真ん中にあるテーブルの上には、あの写真があったのだ。恐るおそる手に取って確かめて見ると、顔らしきものの位置が前とは明らかにちがっていた。
 最初はたしか写真の右上の位置だった。はじめに死んだ友だちのちょうど上に来るような位置だったのだ。それが今では左端のわたしの頭上に来ている。それと、よく見ると、右端と真ん中の友だちの首には、ひと筋の血が流れている。
 と、写真を見つめていたわたしは、この世の恐怖という恐怖を感じたのだ。
 動いてる!
 顔らしきものが写真の中で少しずつ動いているのだ。そして右腕が現れ、その手にはナイフが……
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