恐怖の語部 第一怪
真夜中の訪問者
携帯電話が鳴った。置時計を見ると、午前二時を少しまわっていた。
「こんな時間に誰だろう」
当然寝ていたわたしは、つぶやきながらケータイを耳にあてた。
「ハイ」
『あ、由加? お母さんよ』
「え、お母さん。どうしたの。こんな時間に?」
『ごめんね。何でもないの。ただね、由加の声が聞きたかっただけなの。じゃあ、おやすみなさい』
「え……」
それだけで電話が切れた。たしかに母の声だった。就職のために故郷から遠く離れて地方に移り住んで以来、一年以上が過ぎた。もちろん夏期連休や冬期連休、ゴールデンウイークには帰省した。
誰かのイタズラだろうとも考えてみたが、まだ眠かったので、すぐ寝てしまった。
翌日、すっかり忘れていたわたしは、故郷への電話をかける気も起こらなく、仕事に没頭した。その夜のことだ。またもや同じ時刻にケータイが鳴った。一瞬ドキリとしながら、ケータイを耳にあてる。
「ハイ」
『由加。また、ごめんね。じゃあ……』
「お母さん。話したいことがあるのなら、昼にしてくれない?」
『………』
「お母さん?」
もしもし、と呼びかける間もなく、ケータイが切れた。わたしはすぐ実家の電話番号を押した。呼び出し音が鳴ったが、いくら待っても誰も出て来なかった。
「どういうこと? 誰も出ないなんて……」
実家には両親と祖母、それに高校生の妹が住んでいるはずだ。いくら考えても答えが出るわけでもないので、翌日の昼にまた電話しようと思いなおして、眠りに入った……
翌日の昼食休憩時間、実家に電話をかけてみた。だが、いくら待っても誰も出て来ない。
「おかしいわね。誰もいないのかな」
わたしは妹のケータイにメールを送ることにした。
『舞衣。お久しぶりー♪ お姉ちゃんだよ。元気にしてる? 久しぶりに家の方へ電話してみたんだけど、誰も出ないから、舞衣のケータイへメールしたよん♪ もうすぐ夏休みだよ。もちろん帰るから、また浴衣を着て、お祭りの夜店へ行こうね。じゃあね♪』
それから、何時間経っても妹からのメールは来なかった。
「そうか。舞衣は今三年生だから、進路のことで忙しいのかな」
ものごとをあまり深く考えないわたしは、また実家の方へ電話をかけてみた。しかし、誰も出なかった。だんだん不安になった。すぐ思いついたのは、父の会社へ電話をかけ、父を呼び出すことだ。だが、受付嬢の応えは意外なものだった。
『うけたまわりましたお名前の方は、当社にはいらっしゃいません』
そんなバカな?!
わたしは何度も確かめるように言ったのだが、父の籍は会社の人事には存在しないと言うばかりだ。わたしの頭は混乱した。どうなっているのだ……?
明日は日曜日なので、徹夜して電話を待つことにした。
午前二時――
だがやって来たのは母の電話ではなく、妹からのメールだった。その内容は意外なもので、わたしの頭は電気を浴びたように、強くしびれた。
『お姉ちゃん。お母さんからの電話、かかって来たんだね。その電話、どこから来たと思う? ビックリしないでね。何と、あの世から、でした。もちろん冗談なんかじゃないよ。お姉ちゃんからのメールも、ここ(あの世)に届いたよ。あたしもお父さんもおばあちゃんも、もうこの世にはいないんだ。なんでかと言うと、お父さんのスパイ行為がバレて、会社から抹殺されたの。ついでにあたしもお母さんもおばあちゃんも殺されたわけ。お父さんに関する記録とかなんかは会社から消され、あたしたちも周囲の記憶から忘れ去られたの。でも、お姉ちゃんだけは覚えてくれたんだね。お姉ちゃん。気をつけて。あいつらがいつかお姉ちゃんを殺しに行くから、今のうちに逃げる用意をした方がいいよ』
わたしはギョッとした。いきなりドアがノックされたからだ。いったい、こんな真夜中の訪問者は……?!
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